一之瀬さんちの家政婦君
海鳥が鳴いたと同時に、飛鳥の上着のポケットでスマホが震えた。
チラリとスマホを覗かせると着信に“一之瀬 和真”と表示されている。
長く休憩し過ぎてしまった……!
後悔してももう遅い。
飛鳥は慌てて立ち上がると、買い物の荷物を全て提げて一緒に休憩していた櫂人に向けて一礼する。
「手伝って頂いてありがとうございました。あと、コーヒーも……。家主に呼ばれているので帰ります」
「良いってことよ!こっちこそ付き合わせてごめんな」
飛鳥は最後にペコッと会釈してその場を離れていった。
“一之瀬 和真”
飛鳥のスマホのディスプレイに表示されたその名が櫂人の記憶に刻まれる。
彼女の姿が完全に見えなくなると、櫂人は数メートル先のゴミ箱に目を向けた。
「一発で入ったら飛鳥ちゃんと両想い……」
飲み干したコーヒーの空き缶を構えて投げた。
子どもみたいにくだらない願掛けを添えて。
ゴミ箱の枠に弾かれて空き缶がカランコロンと地面を転がる。
その音に驚いて、休憩中の鳩が数羽飛び去った。
「い、今の無しで……」
誰も見ていないのを良いことに勝手に無かった事にしてしまうと、いそいそと空き缶を拾いに行ってきちんとゴミ箱に捨てた。