一之瀬さんちの家政婦君

結局、和真はマンションに着くまでずっと一言も話さなかった。

繋がったままの手からその不機嫌さが飛鳥にも伝わる。

「……一之瀬さん、迎えに来てくれてありがとう」

飛鳥は控えめにお礼をのべた。

彼が不機嫌だから機嫌を取ろうということではなく、感謝の気持ちは心からのもの。

部屋に入って、ようやくその手が離される。

「アイツ、お前が女だって気付いているだろう」

「えっ……!?そ、そんな事は無いんじゃないかな……」

飛鳥はコートを脱ぎながら答えた。

なんとか平常心を保とうとするが、脱いだコートをまともにハンガー掛けすることすらままならない。

ぜ分かってしまったのかが分からなかった。

櫂人と和真が顔を合わせたのはほんの数分だけ。

その間に怪しい素振りなど無かったはずなのに。
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