気まぐれな君は


「うっせーな黙れ!」


目の前で始まった舌戦に、気持ちを整理するどころではなくなった。


ストップ! と二人の目の前に両手を突き出す。私の方を向いた真白くんと柳くんに、ちょっと待って、と繰り返し言葉を口にする。


結局何がありがとうなのか分からない。


「……それで?」


考えても仕方なかったので先を促すと、苦笑しながら柳くんが口を開いた。


「ただとにかく真白を受け入れて、悪くないって言ってくれてありがとな、ってこと。俺にはできなかったから。多分近すぎたんだろうな」

「あー多分それかも。ずっと一緒だったもんなあ」

「真白は一回黙れ」

「うぃっす」


だって、真白くんは悪くないじゃないか。病気になったのは真白くんが悪いわけじゃないし、検査を受けなかったのも、きっと運が悪かった、それだけの話で。


でも、確かに、近すぎるからこそ責めてしまうという柳くんの気持ちも、分からないではない気がした。


「それでなんだけどな、都築さん」


真白くんを手で制した柳くんが、空気を変えるように私の名前を呼ぶ。どう答えればいいのか分からない私は、じっと柳くんの顔を見る。


「出来ることが、ないわけじゃねえ。先週みたいな時の対処法くらい、まあ大したことじゃねえけど、一応できることだってあるし、大丈夫と大丈夫じゃないの違いもある。……これは真白から、というより、俺からの頼みでもあるんだけど、そういうの、教えるから覚えてくれませんか」


一言一言、しっかりと口にして、小さく頭を下げた柳くんに返す答えなんて、とっくのとうに決まっていた。


「私でよければ、教えてください」


出来ることはやると決めたのだ。何より、出来ることはしたいと私自身が強く思った。


少しでも、出来ることがあるなら。覚えることがあるなら。


私はそれを覚えたいと思うし、何かあったとき対処できるようになりたい。何かないのが一番なんだろう、とは思うけれど、何もない、なんてことがないのはきっと、目の前の二人が一番よく分かっている。だからきっと、私にこんな話をしてくれたのだ。


その期待にも、応えたい。私のために、いろいろしてくれたから。二人はもしかしたら、何もしていないっていうかもしれないけど。だったら私が勝手に恩返しをするだけの話だ。


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