気まぐれな君は
そうかな、と首を傾げる真白くんに、そうだよと柳くんが雑に返事をする。柳くんの膝の上からするりと抜けだした白くんが、私に近づいてくると少し警戒するようににゃあんと鳴いた。
そっと手を伸ばして、白くん、と名前を呼ぶ。くん、と手の匂いを嗅いだ白くんが、少しだけ顔をこすりつけるとするっと踵を返した。向かう先は飼い主である真白くんの膝の上、苦笑しながら白くんを抱き上げた真白くんが、匂いかな、と呟いた。
「多分そうだね」
「今いっぱいいるしね、都築さんのうち。真白、ほとんど猫と交流なかったから分かんないんだと思うよ」
家で一匹飼い猫だと、ほとんどよその猫と交流がなくなってしまうのは仕方ないことだ。
こういうことも初めてではないため、特に気にせず真白くんの入れてくれた麦茶を一口。他愛もない話をしながら、私の持ってきたクッキーを食べ切って。白くんが真白くんの膝の上ですっかり寝てしまった頃、さて、と呟いた真白くんが膝の上の白くんを見て、冬馬、と柳くんを呼んだ。
はいよ、と言いながら勉強机を漁ってファイルを取り出した柳くんが、それを真白くんに手渡す。ありがと、と口にしながらファイルから手書きのプリントを取り出した真白くんが、それを私に差し出してきた。
「それ、俺の主治医が書いてくれたんだ。冬馬に事情話した後に、冬馬ができることがあったら知りたいから教えてくれって。そんで二人で主治医んとこ突撃して、教えてもらった」
差し出されたプリントを手に取って、目を通していく。考えられる症状と、それに対する対処の方法。危ない症状の場合は救急車を呼ぶこと、それ以外にも病院に来てほしい症状と様子見でいいものとを纏めてある。まだ中学生だった二人にも分かりやすいように、イラスト付きで。中学生だった二人にも、出来ることを。
だから、対応自体はそんなに難しいものではない。多分難しいのは、その場に立った時に動揺しないで行動すること、にあるのだろう。
私も、柳くんみたいにできるようになるのだろうか。
いや、なるって決めたんだ。足手まといにはなりたくないから。何もできないで見ているだけは、嫌だったから。
「これ、借りてコピーしてもいいかな?」
その場になってみたいと、動けるかどうかは分からない。だったら今の私にできるのは、対応をきちんと覚えておくことくらいだ。
「うん。……なんか、ありがとね」
「え?」
「まさか都築さんがここまでしてくれるとは思わなくて。いや、都築さんなら大丈夫だとは思ってたんだけど」