気まぐれな君は


考えてみたら、真空のことはずっと猫っぽいと思っていたのだ。


気まぐれで我が道を行くタイプ。懐く人には懐くくせに、懐かないととことんダメ。温かいところが好きで、身体のこともあったけれど冬は苦手。夏も暑すぎるのはダメ。それに、猫の言葉が分かっているみたいに話しかけたりしていた。


今だって、昴さんのことをすばるおにいさんって。お母さんをあいりって。舌っ足らずな呼び方で、まるで甘えるような呼び方で。


「また会えてうれしいよ、すばるおにいちゃん、あいり」

「真白……っ」

「まそら、っ」


私ごと、昴さんとお母さんが真空を抱き締める。わあ、と声を上げながらも楽しそうにする真空に、もうなんだっていいやと私も笑った。


真空、と小さく名前を呼んだおばさんに、真空が母さんと呼びかける。静かになった昴さんとお母さんに笑ってから、真空が穏やかな表情で笑った。


「身元も分からい俺を育ててくれてありがとう。……真空って名前を付けてくれて、ありがとう。出来れば、俺のこと受け入れてほしい。でも今はただ過去のねこだった頃の記憶があるだけのにんげんにすぎないけど」

「だったら、私はいつまでも真空の母親だよ。なにがあっても。真空が前世で猫だったとしても」


母さん、と泣きそうになりながら、それでも真空は笑顔を崩さない。ありがとうございます、とおばさんに頭を下げた昴さんに続いて、お母さんも頭を下げた。


「真空も、真白も、最初から身体が弱かった。病気のことも、愛梨から聞いています。……育ててくれて、ありがとうございました。『むかしの家族』として、『いまの家族』として、お礼を言わせて下さい。……本当に、ありがとうございました」


いいえ、とおばさんが首を振る。そっと寄ってきたおばさんは、手を伸ばすと真空の頭をそっと撫でた。


「大きくなったね、真空。ここまで大きくなってくれて……ありがとうは、私の台詞。確かに昔は猫でも、今は立派な人間なんだから。出来ることをできるうちに、たくさんやりなさい」


うん、と頷いた真空の涙腺が決壊するのが分かった。ぱたぱたと零れ落ちる涙が、私の肩を揺らす。真空の拘束を外して向き合うと、頬を両手で挟んで強制的に視線を合わせた。


「ねえ真空、真空が猫だって知って、びっくりしたよ。でも、納得もした。だって真空、猫みたいだなってずっと思ってたから。だから、……だから。これから先も、私と一緒に、人間として、一緒に生きようよ」


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