ミステリアスなユージーン
「佐渡君ごめん、すぐ戻るから待ってて」

気付くと私は荷物も持たず、カフェを飛び出していた。

それから、課長が歩いていた方向に目を凝らす。

見付けたものの人通りが多く、なかなか傍まで辿り着けない。

「すみません、ごめんなさい」

後ろから声をかけて三列で歩く若者に道を譲ってもらい、私は駆け出した。

「課長!」

ビクンと課長の背中が跳ねた。

「課長!」

決して少なくない人々の中、不思議なことに私は彼の全身が見えていて、何だか障害物が透明になったかのようだった。

立ち止まった課長がゆっくりと振り向く。

その眼が私を捉えた瞬間、私は眼を見開いた。

だって課長が私を見て泣きそうな顔をしたから。

「菜月……こんな俺を見るな」

課長が私を見たまま後退りをした。

「課長、待って、危ない……」

課長のすぐ後ろは車道で、彼は多分それに気付いてない。

彼は私を見たまま後ろ歩きをしていて、止まる気配がない。

私は無意識に駆け出していた。
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