ミステリアスなユージーン
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何の前触れもなく、その瞬間はやってきた。

「新庄!SD課のパンフレットのサンプル上がってたからもってきてやったぞ!」

もう昼近いオフィスに、あまり聞きなれない声が響き渡った。

反応したオフィス内の皆が、何事かと顔をあげる。

「島根部長。ありがとうございます」

営業課の島根部長からパンフレットを受け取った課長が皆を見回して、それを持つ手を高く上げた。

「みんな、回すから順番に見てみろ」

「あれ?!社内案内なら去年新しく作ったばかりじゃないですか?」

安積くんの驚いた声に皆が頷く。

「あれは国内求人用のものでこの度は企業向けのパンフを一新したんだ」

……企業向け?

島根部長が頷きながら言葉を発した。

「近々VP撮影も始まるそうだ。後日正式に通知がある。映像製作はSAグループが担当するそうだ」

企業VPとはVideo Packageの略語で、企業が制作する映像……いわばプロモーションビデオのようなものだ。

それをSAグループが?

瞬間的に皆が佐渡君のデスクを見けれど彼は今、席を外している。

その時、私はハッとして眼を見開いた。

それと同時に沙織との会話を思い出す。


『でも変よね。彼はブランディングが本職なんでしょ?どうしてSD課に入ったんだろう』
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