ミステリアスなユージーン
『菜月。前に私が言ったこと覚えてる?あんたが頑張らなきゃいけないのは別のところだって言ったこと。今がその時じゃない?』

今が、その時。

そうだ……私は……私はいつも自分から頑張っていただろうか。

誰かを……好きって事を。

今がその時。

沙織の余裕の笑みが脳裏に浮かんだ。

その笑顔が私の背中をトンと押す。

『うん。ありがと、沙織』

私はスマホをしまうと眩しい空を見上げた。

それから大きく息を吸うと施工会社へと足を向ける。

今日の仕事をしっかりこなしたら、佐渡君と話をしようと思いながら。


∴☆∴☆∴☆∴

数時間後。

『佐渡君。何時でもいいから少し時間を作ってくれない?話がしたいの』

『俺も話があります』

スマホの画面をタップした後、私は大きく息を吸って気合いを入れた。

シャワーを浴びて汗を流し、メイクをする。

三十分後の私は、一体どうしているのだろう。

彼と話をして……笑っているのだろうか。

幸せを噛み締めているのだろうか。

それとも訪れた恋の終わりに、さめざめと泣いているのだろうか。

『着きました』

『うん。今から降りる』

お気に入りのワンピースを着て大好きなハイヒールを履いた時、佐渡君の艶やかな声がスマホから流れた。
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