ミステリアスなユージーン
胸が押し潰されたように苦しいのは、私と佐渡君がまるで釣り合わないと分かっているから。

グループ売上二百億ユーロと言われているSAグループの日本支社長と私じゃ、どう考えても不釣り合いだ。

マンションのエントランスの数メートル手前で、ハザードランプを点灯した車から佐渡君が姿を現した。

「こんばんは」

その姿に、私は思わず両目を細めた。

こちらを見つめて少し頭を下げた彼は、私の知らない人みたいだった。

沈みかけた太陽の赤い光を受けた、仕立ての良いスーツ。

きっちりと整えられた髪。

ああ、本当に私の手の届かない人だ。

「乗ってください」

滑らかな曲線を描いた美しい高級車は、佐渡君にとても似合っていた。

「……少し付き合ってください」

「……うん」

助手席へと促された私は、痛いくらい響く心臓をどうすることも出来ない。

ハンドルを握る大きな手や端正な横顔を、すぐ隣で感じるのに見ることが出来ない。

……佐渡君は今、何を考えているんだろう。

車内には会話の無いふたりと、静かに流れる古い黒人音楽、それと佐渡君の香り。

切なくて切なくて、もうこれだけで泣きそうになる。

弱虫でちっぽけな私は、今にも消えてなくなってしまいそうだ。

「もう着きます」

低く囁くような佐渡君の声に私は頷くしかなかった。
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