ミステリアスなユージーン
その時、カツンと誰かの靴音が聞こえた。

「おはようございます、課長」

……嘘でしょ。

そのまま首だけでドアを振り返った私の眼に、課長の驚いた顔が飛び込む。

やだ、ちょっと待って。

焦って離れようとする私とは対照的に、佐渡君の片腕は私の腰に絡まったままで、おまけにもう片方の手は私の手首をしっかりと掴んでいる。

「ちょっと、離して」

その時課長が気を取り直したように少し笑った。

「何やってんだよ?!もしかして、お前ら……」

「ち、違いますよ課長っ!私の大切な高級コーヒーを、佐渡君が飲んじゃったんですよ!だから今、」

「菜月、ごめん。また身体で払うから」

冗談めかした佐渡君の瞳が私を優しく見下ろす。

なんじゃコイツは。

……自分が石像になっていく気がした。

すべての動作が一切出来なくなり、固まっていく感覚。

眼で殺す勢いで睨んでいるのに、佐渡君は私に見向きもせずに課長を見ていた。

課長もまた佐渡君に視線を移し、何かを見定めるかのように彼を見つめた。

「……」

「……」

三人いるブレイクルームが静まり返り、妙な空気が充満する。

そんな沈黙を一番に破ったのは佐渡君だった。

「なあ菜月、今晩部屋に行っていい?俺が晩飯つくるからさ」

こ、こいつはイカれたんじゃないのか。
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