ミステリアスなユージーン
私は密接したままの佐渡君の耳に唇を寄せて、圧し殺した声を出した。

「……なんのつもりよ!?」

そんな私に、佐渡君が言葉を返す。

「全く鈍い人ですね。あなたはまるで分かってないんですよ。俺に合わせていればいい」

言いながら半ば伏せられた佐渡君の瞳と、端正な頬に心拍が上がる。

その時、

「……岩本、ジュエリーショップの件で話があるんだ」

言い終えて唇を引き結んだ課長は、相変わらず佐渡君を見据えたままだったけど、私は即答した。

「分かりました」

それから手に力を入れ、佐渡君の腕を解く。

私のその行動にようやく身体を離した佐渡君は、課長に声をかけた。

「課長。その件、俺も同席していいですか?」

直ぐに課長は首を横に振った。

「いや。岩本だけでいい。佐渡は仙道に付いてやってくれ。子供服店に改装中の現場が遅れてるんだ」

「……わかりました」

「……じゃあ岩本、チームミーティングの後、会議室まで来てくれ」

「はい」

課長がコーヒーを淹れて出ていった後、佐渡君は小さく息をつくと呟くように言った。

「あれが課長の口実だと分からないんですか」

「分かってるわよ」

「ズルズルしますよ?ここで断ち切らないと」

……分かってる。そんな事。

「というか、さっきのは何よ!何が『菜月』よっ」

ムッとして睨む私を見て佐渡君がまたしてもニヤリとした。

「よく言いますね。ヤッてる最中、菜月って呼んでって」

「あんただって、右仁って呼んで下さいって言ったじゃん!」

バリバリと睨む私とは真逆で、佐渡君はフッと笑うと私の頭にポンと手を置いた。

「さあ、コーヒー飲んだら仕事ですよ」

「コーヒー返せ」

「だから、俺の身体で」

「変態!」

拳で佐渡君の脇腹をゴン!と殴ったのに、彼は唇の端を上げて笑っていた。
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