ミステリアスなユージーン
∴☆∴☆∴☆∴

翌朝。

月曜日でもないのに、私は二本早い電車に乗り出勤した。

理由は、次の仕事の大まかな案を忘れないうちにデータ化したかったからだ。

セキュリティゲートを通り、エレベーターホールで足を止めた途端、

「おや岩本さん。おはようございます」

……おやって……お前は童話の中のお婆ちゃんか。

密かに心の中でそう突っ込みながらも、私は思いきりニッコリと微笑んだ。

「あら佐渡君、早いのね。どうしたの?もしかしてSDの仕事が一週間で覚えきれないから早出してるとか」

参ったか。

ところが佐渡君は、エレベーターに乗り込んだ途端、予想外の言葉を口にした。

「まだ怒ってるんですか」

……は?

何の事か分からず、二人きりのエレベーター内で彼の顔を見上げると、彼は少し眉間にシワを寄せていた。

……まだ怒ってるんですか、ということは……佐渡君は私に何かしたってこと?

……はて。……でも。

もしかして佐渡君は、私の機嫌を損ねたと思い、焦ってるんじゃないだろうか。

だって妙に落ち着きがないし。

ふーん。

私は密かに心の中でニヤリと笑い、口元を手で押さえて佐渡君から眼をそらした。

「……もういいよ……悪いのは……私だから……」

……ふふふ。何の事か知らんが罪の意識に苛まれてろ!
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