ミステリアスなユージーン
私は秘書の三村さんに車へと促される大女将を見送ると、急いでオフィスへと戻った。

デスクに座り、精神を統一するために眼を閉じると、自分があの何もない二階の店舗の真ん中に立っている画が浮かぶ。

……私が着物を買う為に店を訪れるとしたら……風格のある店構えも素敵だけど、気軽に入れるのがいい。

出来るだけ沢山の反物を手軽に見れるようなオープンな箪笥がいい。

着物に疎い私は、怖じ気付いてすぐに店員さんに訊ねる勇気はないな。

伝統を崩さずに流行りを取り入れた柄や着こなしを、それとなしに眼で確認したい。

部屋のライティングは明るめが安心するし、棚の類いはあまり重厚や荘厳だと緊張する。

……となると……。


ひとつ、ふたつと、何もなかった空間に色が増えていく。

……うん。手前には透明感を出そう。となれば……。

私は唇の端で微笑むと、手に持っていた鉛筆を画用紙に走らせた。


∴☆∴☆∴☆∴


「ああー、ダメ、お腹すいた!」

夢中になっていて夕御飯を食べてない。

少し前までは安積チームの面々がクレーム対応の為に居残っていたけど、それも解決したらしく、オフィスには私ひとりだけになっていた。
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