ミステリアスなユージーン
確か佐渡君は食事中にこう言うと、再びオフィスまで来てデザインが完成した呉服桜寿の案件を全部まとめてくれて……。

私はそれを彼に任せてすぐ、中山君と西野君の案件に取りかかった。

中山君達の案件は、六坪程のスキンケア製品の個人店で、オーナー様からの細かな注文が沢山入っていたために逆に時間短縮出来た。

『……さすがですね。オーナーの希望を叶えつつここまでオリジナリティを追求出来ていると、大型商業施設の中でもこのお店は一番目立つかもしれませんね』

佐渡君が初めて私のデザインを見てこんな事を言ってくれて嬉しくて……。

『寝てていいですよ。コンピュータールームは床が絨毯だし、ブランケットを敷けば、何とか眠れるでしょう』

そう、確かこう言ってくれたから、私は少しだけ仮眠を取ろうと思って……。

と、ここまで思い出した時、ギュッと身体を圧迫されて鼓動が跳ね上がった。

「菜月……」

……え。

佐渡君が私の身体に回していた両腕に少し力を込めた。

でも、私の心臓がキュッとしたのは彼の腕のせいだけじゃない。

『菜月』

呟くように囁くように彼が、私の名前を呼んだから。
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