キミは甘のじゃく

「さくら」

寝室から名前を呼ばれると、ついビクンと肩を震わせてしまう。

聞こえないふりをして皿洗いに没頭しているふりを続けていると、今度はもっと大きな声で呼ばれる。

「……さくら」

今度はかすかな苛立ちを匂わせている。

……これ以上は誤魔化せそうにない。

私は皿洗いを早々に切り上げると、おずおずと寝室に入っていった。

古賀くんはパジャマがわりのスウェットを着ていて、すっかり準備万端である。

「何をグズグズしてんだよ」

待ちぼうけを食らって彼はすっかりご立腹なご様子で、私の腰を抱いた。

その背後にはキチンとシーツが整えられたダブルベッド。

それが妙に生生しく感じる。

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