銃刀法がなくなった!
食パンを片手にみのるはテレビを付けた。

──優勝者 水瀬 みのるさんは今回初出場にも関わらず、前大会優勝者と互角の戦いを───

どのチャンネルに切り替えても、朝のニュースは昨日の大会の話題ばかりで、みのるは大きなため息をついてしまう。

(まさか、ここまで目立つとは……。)

世界でも有名な大会となった今では、どこもかしこもその話題で持ちきりだった。そんなニュースを見ていると、みのるは緊張でおかしくなりそうだった。外に出れば、大勢の人に囲まれ写真をせがまれる。そして、その騒ぎを聞き付けた報道陣に囲まれインタビューを受けることとなる。昨日の大会後、それを何回か繰り返したあと、走って逃げ帰ったことを思い出すと、みのるの手には汗がにじんできてしまう。そして大きなため息をもう一度つくと、
「学校どうしよう……。」
と呟いた。
こんなに目立ってしまえば、友達にも内緒にして参加した意味が無い。学校でも目立つに決まっている。そんなことを考えながらみのるは、渋々家を出た。校則が緩いため、帽子で顔を隠せたのはとても効果があった。道中、一人も声を掛けてくる人がいなかったからだ。
(まあ、みんな気にしてないだけかもだけど。)
少し安心しつつも、学校に着くとやはり注目をあびてしまった。下駄箱付近では、みのるを待つ大勢の生徒の姿があった。その中に入っていくのには勇気がいったが、昨日の取材陣に比べれば余裕だ。初めに声を掛けてきたのは親友のマキだった。マキはキラキラした瞳でみのるを見つめ、
「おめでとう!!!」
と、言った。その反応にみのるは少し安心した。しかし、「ありがとう」の一言も言えないまま、他の生徒に囲まれてしまい、サインやら写真やらをせがまれた。
(──サインってどう書くんだ?)
と心の中でつぶやきながらも、差し出された用紙に普通に名前を書いた。それを受け取った女子生徒の反応は少し薄かったが、みのるは人生初のサインに満足感を感じていた。

***

予鈴が鳴り、みのるを囲んでいた人の群れもすぐに無くなった。登校して十分程度でみのるは既にボロボロの状態だった。しかし、教室でもクラスメイトたちが入口で待ち構えていた。
(げっ。)
と一瞬思ったが、二日もすればこんなことは無くなるだろうと、その日一日は笑顔で対応した。サインや写真は勿論、テレビ出演なども全て承諾した。
それが大きな間違いだと気付いたのは、それから一ヶ月後のことだった。
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