金木犀の季節に



演奏が終わって、手がちぎれるかと思うくらい、拍手をした。

言葉で表せないくらい、感動した。



「それじゃあ私もなにか弾くよ」

気のせいかわからないが、雨は少しだけ弱くなった気がする。
ビニール袋からバイオリンをだそうとしたが、
「だめだよ、花奏ちゃんはこれからもその楽器で演奏するんだから」
手を掴まれてできなかった。

その言葉を聞いて、私はやっと理解する。

奏汰さんの『愛の挨拶』は、彼にとっての最後の演奏だったということを。



「すごく、すてきだったよ、本当に涙が出ちゃいそうなくらい」

うまく言葉が紡げない。

「本当? 良かった」

それでも、奏汰さんはいつも通りに笑ったから。
二人の日々がいつまでも続けば、と願ってしまう。




< 54 / 98 >

この作品をシェア

pagetop