金木犀の季節に
演奏が終わって、手がちぎれるかと思うくらい、拍手をした。
言葉で表せないくらい、感動した。
「それじゃあ私もなにか弾くよ」
気のせいかわからないが、雨は少しだけ弱くなった気がする。
ビニール袋からバイオリンをだそうとしたが、
「だめだよ、花奏ちゃんはこれからもその楽器で演奏するんだから」
手を掴まれてできなかった。
その言葉を聞いて、私はやっと理解する。
奏汰さんの『愛の挨拶』は、彼にとっての最後の演奏だったということを。
「すごく、すてきだったよ、本当に涙が出ちゃいそうなくらい」
うまく言葉が紡げない。
「本当? 良かった」
それでも、奏汰さんはいつも通りに笑ったから。
二人の日々がいつまでも続けば、と願ってしまう。