金木犀の季節に



よくラブソングにあるような綺麗事でどうにかなるような気持ちじゃ、ない。
たしかに、奏汰さんには幸せになって欲しい。
でも、それは叶わないから。
せめて今だけは、幸せを感じてほしいんだ。

「少し、目つぶってて」

突然のことに驚きながらも、言われたとおりにする。
数十秒たって、
「いいよ」
と声をかけられて目を開けた。
「手、出してよ」
「うん」
そして、私の手には、ガット弦が乗せられた。




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