金木犀の季節に
「もちろん長男だからすごく反対はされたんだよ?」
「うん」
「でもね、どうせ死ぬなら、誰かの役に立って死にたかった」
死というのがどれだけ重い事なのか、微かに震える彼の瞳から読み取れる。
「俺、音楽がこんなに人の役に立つって知らなかったんだよ」
また、手を握られた。
「この腕は、誰かの役に立つ、素敵な腕だよ。
君のその音で、救われる人がたくさんいるはず」
本当は、もうすぐその命を散らす人を、私が励ますべきなのに、また優しさを受け取ってしまった。
「君がいるから、最後まで俺が俺でいられる。」
奏汰さんは、泣いていた。
「ありがとう」
私は、全力で頷く。
むしろ、私の方こそ感謝でいっぱいなのに。
「私の方こそ、嫌なことがあっても頑張ろうって思えたのは、奏汰さんに会えたから」