冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
クラウスへと傾く感情と、ルーシャへの想いは、だが別のものだった。

リアネルの話が事実だとすると、間違いなくクラウスはルーシャのことを知っている。
あるいは彼女の辿った運命についても。どころか、そこにはクラウス自身が関与しているかもしれないのだ。


クラウス様、お姉さまは、ルーシャは今どこにーーー?

彼に訊きたい衝動にかられたが、結局口に出すことはできなかった。

クラウスは何度も、ルーシャの存在をすら否定していた。彼が今さらその意を曲げるとは思えない。

どうせ答えてはもらえないという諦めと、それにそう恐れているのだ。
穏やかに流れている日々に、波紋を呼ぶような真似をしたくなかった。

温室で、フロイラを腕に抱いたまま、あんな男のことは忘れろとクラウスは言った。
素直に「はい」とうなずいた。もとよりリアネルに特別な感情は持っていない。
クラウスの手のひらが、ゆっくりと数度フロイラの頭を撫でた。まるでかつて父がそうしてくれたように。

あのやさしい手のひらを、固く握りしめた拳に変えてほしくないと、そう思ってしまうから。
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