冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
「あんな出自の卑しい男にはもったいない。飼われるなら、高貴な飼い主に飼われるのが幸せというもの。
ああ、この細い首には、鉄の首輪がさぞ似合うことだろう。一目見たときから、わかっていた」

何かを解き放ったように、リアネルの口は止まらない。くちびるがにいっ、と左右に吊り上がり、そこから赤い舌がのぞく。

「どんなに見目形が良くても、下賤の出の者はすぐ飽きる。磨いたところで所詮はドブネズミ、ゴミの臭いが消えなくてね。おまけに自分の身を金銭に替えることに抵抗がないときてる。
生まれ育ちや血筋がものをいうのは、動物も人間も変わらないな。
怖がらなくてもきみはすぐに虜になる、調教される悦びというやつにね」

このひとは・・狂ってる・・・

「人を飼う。これこそ選ばれた者にのみ許される、背徳の極み。そうは思わないか」


絶望に色があるとしたら、それはやはり黒だ。
全身が冷たく昏い沼に沈んでゆく。呼吸すら苦しいのは、薬のせいか、それとも・・・
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