冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
「ーーー気配は殺していたが、背後から近づかれても気がつかないとは。獣は獲物を仕留めた直後であっても警戒は解かない。横から奪われないようにな」

「・・・・・」

もっともそいつは最初から俺のものだ。
重く、低いクラウスの声。

近づいてくるのを足音と気配で感じる。

「なぜここへーーー」
リアネルがようやく言葉を発した。

「育ちのいいお坊ちゃんは、人を疑うことを知らないから簡単だな。罠に決まっているだろう」

罠・・・力無いつぶやきを漏らすリアネルの腕から、クラウスはフロイラをもぎ取るように奪い返す。

「まあ連れ去ったところで、貴殿の手には負えないだろう。これが見かけによらず、結構なじゃじゃ馬で、俺でさえ手を焼いてるくらいだ」

クラウスの腕の感触に、かつてないほどの安堵を感じる。
力を失った瞳であっても、そこからにじみあふれるものがある。
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