冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
あら、と足が止まる。

視界をちらつくものがある。黄色くひらひらと舞っている。

蝶かしら? こんなところに。

換気のために開けていたどこかの窓から、迷いこんでしまった蝶のようだ。

外に逃がしてあげないと・・・

あたりを見回すが、あいにくとメイドの姿は見当たらない。
黄色い蝶は、さまようように邸内を渡ってゆく。フロイラは見失わないようにその後を追った。

廊下から踊り場へとたよりなげに、それでも止まることはなく、蝶が飛んでゆく。
窓から差し込む光の帯にとけこむように、階上へとのぼる。

どこへ行ってしまったのかしら・・・

三階の踊り場であたりを見回す。そういえば三階へ足を運ぶのは、この邸へ来た日以来だ。クラウスに持ち物のすべてを燃やされたあの日。

彼の峻峭さの裏にあるのは、多分ひねくれた優しさで、あの頃は気づくことなどできなかった。
それから彼は、自分に能うかぎりのものを与えてくれたのだと、あらためて思う。
< 194 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop