冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
預かった人形の成れの果てをアナベルに見せたところ、状態のひどさに驚きつつも、手を尽くすと約束してくれた。

「直すより新しい人形を作るほうが、まだ簡単ですよ。大事な人形をこんなにされてしまって、可哀想に」

アナベルはわずかに残ったリリアの毛糸の髪をすっかり取り、泥だらけの体と頭を洗い清めて、パリッと糊付けした。

そのあいだに、ルーシャはメイドと町の服地屋へ出かけた。
リリアの新しい服と髪になる毛糸と目にするボタンを探すためだ。

生まれて初めて、ルーシャは服地屋に並ぶ商品を熱をこめて見つめた。
頭に描くのは、あの小さな少女の姿だ。

さらさらした黒髪には、細い艶のある毛糸をえらぶ。目には透きとおった丸い紫色のボタンを。

「もっとキラキラしたボタンがいいんだけど。お母様のブローチみたいな」

「あれは紫水晶ですよ。さすがに人形の目には高価すぎます」

「そうなの、残念ね」
あの少女の瞳は澄んでうつくしかった。無機質な貴石よりもずっと。
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