冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
ルーシャはそのまま少女を屋敷に招き入れた。もっと長くこの子と一緒にいたかった。

着飾りとりすました親戚の少女達しか間近に見たことがなかったルーシャの目に、布人形を抱いた幼い少女は、なんとも素朴で愛らしく映った。

母親が近くの療養所に滞在しているという話だった。
それから、少女は毎日のように屋敷に来るようになった。

フローというのが彼女の名だった。愛称なのだろうが、いつもそう呼んでいたから、本当の名前がなんだったか憶えていない。

今にして思えば、少女の身上について大人達は調べたはずだ。

この土地の住人ではない幼い少女で、零落した伯爵家の娘。社交界との関わりもない。屋敷への出入りを許されたのは、無害と判断されたからだろう。
活発な男児と触れ合わせれば、ルーシャのうちに押し込められたクラウスが顔をのぞかせてしまうかもしれない。

年下の少女が許容限度だったのだろう。

当時はそんな大人の事情など知る由もなく、初めてできた友達の存在に夢中だった。
< 220 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop