冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
フローも自分を慕ってくれることが、この上なく嬉しかった。

しかし、「わたしお姉さまっていないけど、ルーシャはお姉さまみたいだわ。お姉さまって呼んでいい?」と聞かれたときには、ひどく複雑な気持ちになった。

期待をこめてキラキラと輝く瞳をくもらせたくはなかったから、「いいわよ」と答えたものの、本当は男の子なんだけどなあ、と胸の内でつぶやく。

この少女がずっとこうして、そばにいてくれたら。二人でいつまでもこの庭で遊んでいられたら。
生きているのもそう悪いものではないかもしれない、そんなことさえ思った。

そしてーーーその日々を破ってしまったのは、ほかならぬ自分だった。

実際のところ、生垣に抜け穴を見つけて以来、フローを誘う以前からたびたび屋敷を抜け出していたのだ。
いけないことをしているという後ろめたさと、見つかってはいけないスリルと、止みがたい冒険心。それは多分にルーシャの中にいる少年のものだった。
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