冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
思い出したのは、ピーという細い草笛の音を聞き取ったときだ。

少年の一団が “獲物” を見つけたときの合図の音。

しまった、と体が一瞬固まり、「いけない」というつぶやきが口から漏れる。

「どうしたの」
と隣で手をつないでいるフローが心配そうにこちらを見上げる。

なんとも愛らしく、そして頼りない存在。
守ってやるも痛ぶるも、こちらの自由。庇護欲と嗜虐心は、きっと表裏一体なのだろう。
そんなことを思うのは、自分が彼らと同じ男という生き物だという証左であったが、いまはそれについて考えている場合ではない。

追い込まれつつある状況を、ひどく冷静に分析し、頭を巡らせている自分がいた。
フローを逃がし、自分も助かるためにはーーー

フローを木の根の下の穴に隠し、人がいなくなってから戻るように言い聞かせた。
自分の手を握りしめて怯えるフローに最後にキスをした。
さて、と立ち上がる。

ルーシャは林の中を全力で駆けた。
駆けながら、サンボンネットを外し、カツラをむしり取り、ドレスの裾に手をかけて一気に脱ぎ捨てた。

次から次へと、川の淵に投げこんだ。
最後にエナメルの靴も脱ぎ捨てて、放り捨てる。
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