冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
生まれた子どもを自分の母親にあずけて、貴族階級へのツテを頼りに働きにでた。

貴族の屋敷から屋敷へ、依頼を受けて滞在しては絵を描き、報酬を仕送りにあてた。
女性らしい繊細なタッチと、柔らかな色彩が特徴の画風は、おもに婦人や子どもをモデルにした絵で評判をとった。

とはいえお抱え画家は、依頼が来なくなったら終わりだ。

必死で描き続け、より澄んだ色を、より複雑な色をと、自ら鉱石を砕いて粉にし顔料の調合も行った。

しかし、その際に使用する化学薬品を、触れた皮膚や呼吸から少しずつ摂取し続けたことで、彼女はしだいに健康を損なっていった。

病み、絵筆を握ることもおぼつかなくなってしまった彼女が何より案じたのは、むろん残される息子のリュカのことだ。

病んだ二人の女性と、その息子たち。奇妙といえば奇妙な同居生活だった。
どのようないきさつで彼らと住むことになったのか、今となっては定かでないが、クラウスの人生における転換期であったことは確かだ。
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