冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
悲しくなかったわけではない。
ただ子供心にも、その時がいずれ訪れると、ずっと前から分かっていた。

あるいは母の死によって、ようやく得た自由が、リュカと勉強し駆け回って遊ぶ日々が終わってしまうのではないかと、危惧する気持ちのほうが強かったかもしれない。

その頃にはクラウスの心は、親友と呼べるリュカと、体こそ病んでいても明晰さと意志の力を失わないリュカの母に引きつけられていた。

父の計画の端緒がいつどこだったかは、不明だ。
母のはとこである画家を生業にしている女性との邂逅か。はたまた彼女にクラウスと同じ年の父親のない息子がいることを知った時なのか。

父の一族への処し方をみるに、なるべく物事を穏便に解決しようとする人物だ。
かといって弱腰ではなく、己の意志は決して曲げない(反対されても自分の選んだ女性と結婚した)。争いを好まないぶん、抜け目ない策略家の面がある。

ともあれ事態はふたたび急転して、リュカの母は父の後妻におさまり、そしてクラウスとリュカは入れ替わった。
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