冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
机に向かうばかりでなく、リュカとともに剣術や射撃の練習に熱中し、馬で遠出を楽しんだ。

すべてを会得した自信があったからこそ、養母であるリュカの母、そして父を相次いで亡くした後も、動じることなく爵位と領地を継いだ。

父が存命のうちから携わってはいたが、領地の運営と事業の舵取りに本格的に乗り出した。
その際、親戚が差し向けた管財人が甘言を弄して近づいて来るのを一蹴したことは、いうまでもない。
領地の治水工事、鉱山事業への支援、各種投機・・・すべてにおいておおむね成功を収め、かつての領地も取り戻しつつある。

人々が驚きと賞賛まじりに口にする。
「英明の才に恵まれておられるとはいえ、一体どうしてあの若さで、あれだけの洞察力と判断力をお持ちなのか」

今ある暮らしを当たり前のものだと思っていないからだろう。

否定したくとも、少女として生きていた日々は、自分の人格に少なからぬ影響を及ぼしている。
必要以上に男らしさにこだわるようになったこともその一つだが、厄介なことに女性そのものへの嫌悪感までもが、クラウスの心理の深層に根を張ってしまっていた。
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