冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
“ルーシャ” 時代の痕跡は、所持品から父母が交わした手紙にいたるまで、すべて焼き捨てた。

残したものは二つだけ。肖像画と銀のブレスレットだ。

リュカの母であり、短いあいだ自分の養母であった女性が描いたルーシャの肖像。後にフロイラに述懐したように、じっと座っていなければならない絵のモデルは退屈極まりなかった。

とはいえリュカにとっては母の形見でもあるので、燃やすのはためらわれ、結局布で包んで空き部屋に放りこんだ。

母が自分の息災を願って作らせたブレスレットは、チャームの文字を入れ替えれば “CLAUS” になると思い、なんとなく手もとに残した。

勝者になったのだ。と自分に言い聞かせる。
望めばすべてを手に入れられる立場になったはずなのに。

葬ったはずの呪わしい過去は、それこそやわらかなドレスのようにまとわりついてくる。
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