冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
社交界に顔を出すようになってからというもの、令嬢たちの視線を集め続けていたが、まるで心動かされない自分に気づいて愕然とした。

品を作る仕草や、鼻にかかった声、ふくらんで波打つドレス、香水の香り・・・蝶が鱗粉をまき散らすように、彼女らは魅力を誇示してくる。

惹かれるどころか、唾棄するほどの嫌悪しか感じないのだ。
思い起こされるのは、かつて自分が閉じ込められていた牢獄のような世界だった。

オクターヴを上げた耳障りな声で話しかけてくる女性の相手をするより、リュカと馬で遠乗りしているほうがよほど楽しかった。

しかしながら忠実な家令は一度ならず、鳥を指差しながら言ったものだ。

「クラウス様、小鳥でさえつがうのは雌雄です。私はあなたの影。どこまでもお供いたします。ですが———」

みなまで言わずとも分かっている。分かっているのだが、どうしようもないのだ。

あらゆる女性のなかで、例外といえば “フロー” だけだった。
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