冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
無心に自分をしたってくれたいとけない少女。
フローを思い出せば、胸にわくのは懐かしさと愛おしさだ。

手を尽くして探したが、そのすべてが徒労に終わった。

「クラウス様、『フロー』という愛称だけでは・・・フローリナなのか、エフローディタなのか。せめて名前が正確に分かりませんと」

「憶えてないんだからしょうがないだろ」
憮然と返す。

庭で遊んでいた日々が、まさか突然に断ち切られるとは思っていなかった。
もし分かっていれば、名前なり住んでいる町なり聞いておいただろうに。いかんせん自分も9歳の子どもだったのだ。そこまで知恵は回らなかった。

「フローという愛称の中流階級以上の黒い髪に紫の瞳の若い女性、だけでは干し草の山の中から一本の針を探すようなものです。とりあえず、社交界デビューしている令嬢の中には該当される方はいらっしゃらないようです」

「そうか・・・」

裏から手を回し、当時の療養所の入居者も調べようと試みた。
だが不幸なことに、療養所は後年火事に遭い記録もすべて焼失してしまっていた。
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