冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
「レンガの塀は大変理にかなっております。冷たい風を防いで植物の育成を助けてくれますし、保温性が高いので昼間吸収した熱を夜のあいだに少しずつ放出することで、霜の害を防ぐ効果もございます」

リュカと庭で遊んでいると、園丁がそんなことを教えてくれた。

成長してからも、鳥やウサギの形に刈り込まれた木株や、幾何学模様に整然と配された花壇がならぶ庭園よりも、この小庭をクラウスは好んだ。

子どもが隠れんぼできるような茂みが、そこここにあるから。ワンピースにエプロン姿の黒髪の少女がひょっこり顔をのぞかせてくれるのではないかと、甘く切ない気持ちにひたれた。

目を閉じると、「ルーシャ」というすんだ声音が耳朶によみがえる。
自分の本当の名を呼んでほしいと願う。クラウス、と。


フロー探しが手詰まりになると、どこまで彼女に会いたいと思っているのか、自分でもよく分からなくなってきた。

最も恐れたのは、あの純真で一途なフローが、俗っぽいつまらない女性になり果ててしまっているという事態だった。
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