冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
意識を取り戻した彼女と対面した瞬間、期待は確信に変わった。
こちらに向けられる一対の紫水晶の双眸。

フロー、わたしよ! 自分の中でもう一人の自分が声をあげ、クラウスはうろたえた。

「名を名乗れ。お前は何者だ?」
質問というより確認のために問う。

「フ、フロイラ・ラインハートと申します」

フロイラという名だったのか。うつくしい名だ。
内心の動揺を押し隠すため、表情と声に力をこめなければならなかった。
フロイラにはさぞ威圧的に感じられただろう。

見つけた、ようやく見つけた。

“少女” の頃のときめきと、男としての征服欲がせめぎ合う。

離さない、もう決して離しはしない。それがフロイラにとっての幸であれ不幸であれ関係ない。

諦めかけていたところに、わざわざ向こうから飛びこんできたのだ。
思いがけず巣穴に転がりこんできた獲物を前にした獣の気持ちに似ているだろうかと、そんなことをどこかで思う。

フロイラはルーシャを忘れていなかった。
どころか彼女を慕う気持ちから、ヴィンターハルター領の湖を死に場所に選んだという。
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