冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
いっそすべて打ち明けてしまおうか、とは何度も思った。

しかし、生きる縁ともしている “お姉さま” の正体が、目の前の横暴な男だと知らされたときの、フロイラの精神の均衡を想像するとためらわれた。

それ以上にーーー知られたくなかったのだ。女として生きることを強いられた自分の過去を。

こうなれば、過去の自分の亡霊を負かしてやろうと思うしかなかった。
フロイラがルーシャのことを忘れ、クラウスに心惹かれるようになるように。

はたから見れば、狼がウサギを手なづけようとしているような滑稽な画が展開されるようになる。
新しい部屋やドレスを与えてみても、フロイラは戸惑った様子しかみせなかった。

結局のところ、言葉を交わしきちんと向き合っていかなければ、無為だ。
しかし、うっかり「フロー」と口走ってしまいそうで、名前を呼ぶことさえおぼつかない。
口をひらけば出てくるのは、辛辣な毒舌ばかり。

自分の独占欲と、フロイラの心に根をはるルーシャとの闘いともいえる日々だった。

じきに横やりも入ってくるようになった。
フロイラを一度舞踏会へ連れて行ったときの、男たちの反応といったらである。
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