冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
普段ほとんど使われていないことが見てとれる部屋だった。
寄木張りの床はむき出しで、これといった家具も置かれていない、ガランとした室内だ。

北向きの採光の悪さをおぎなうためか、出窓が天井まで大きくとられ、その枠に腰を預けるように、クラウス・ヴィンターハルターが佇んでいた。

腕を組み、こちらを見据えている。鋭気を放つ黒曜石の瞳に、特徴的な色の髪。

聞き知ったところによると、遠目には昏い赤に見えるクラウスの髪は、実は赤と黒の複色ということだった。Agouti(アグーティ)とよばれるきわめて珍しい、遺伝子のいたずら。
髪に複数の色素が同時に発現しているのである。

赤と黒の帯にわかれて濃淡をもつクラウスの髪は、ひとことでは形容し難い複雑で陰影にとんだ表情を見るものに与える。

またその珍しい髪は、ヴィンターハルター家に代々受け継がれている遺伝的特徴という話だった。


では私はこれで、とリュカが辞し、クラウスとふたり部屋に残される。
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