冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~


耳がかすかな足音を聞きつける。
こちらへはっきり近づいてくる。身体がすくみあがる、

ガチャ、

ノックもなく、扉が開けられる。

「ぁ・・」
条件反射のように身を縮めて、突っ伏していた身体を起こす。それだけでかなりの労力を必要とした。

クラウスはこちらへ視線を据えたまま、ためらいなくベッドのきわまで近づいてくる。

「———気分はどうだ?」

「・・・・・・」

まあ、いいわけもないか、とつぶやきクラウスは軽く髪をかきあげる。

「・・・ぁ・の、」
消え入りそうな声が出た。

「なんだ」

「わたしは・・・」
彼を見上げてしゃべる勇気はもはやなかった。
「わたしは、使用人でいいんです」
邸へ連れられてきた時から、思っていたことだった。
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