冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
*    *    *


邸のなかはすっかり寝静まっている。

フロイラは足音を忍ばせ、部屋を抜け出した。階段を下りると邸の奥へとそっと進む。
内側に厚い布を貼られた扉を開けて、使用人エリアに入った。廊下を進んで裏口を探す。

やわらかな布の上履きは、まるで足音をたてない。

だいじょうぶ、気づかれないはず。

使用人たちは昼の労働に疲れた体を、夢の世界で休らえているのだろう。
コトリとも物音がしない。

突き当たりの裏口の閂を外し、扉を開けるとわずかに軋んだが、さほど大きな音ではない。
外気がさっと吹きこんでくる。入れ違いのように、するりと身を外にすべらせる。

ネグリジェに室内用の上履き、肩にショールをはおっているだけだ。外を歩く格好ではないが、仕方ない。
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