冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
さて・・

ショールのはしをきゅっと握る。
敷地が広大すぎて、位置関係がよく分からない。

厚い雲におおわれて、月の光もほとんど届かない夜だった。
あの炉のあった中庭はどこだろう。邸の裏手をぐるりと歩けば、いずれ見つかるだろうけど。

そろそろと暗い夜の敷地に足を踏み出す。

四角く突き出るように設けられた棟がある。あそこだろうか。
だが、いくらもゆかないうちに、足が止まった。

物音!?

カサッと、という微かな音と気配。あたりを見回し耳をすます。目に映るのは、塗りこめられたような夜の闇ばかり。

張り詰めた神経が引き起こした幻ではない。
確かに、音がした。間違いなく何かの気配があった。

なにかが、そこにいる。
カサッ、カサッ、と地面を踏む軽い足音。

夜に溶けこむ黒く、俊敏で、そしてどう猛なーーー
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