冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
やっと来たか、クラウスが荒い息とともにつぶやいた。
誰かが駆けてくる足音と、手にしているランプの灯りが見えた。
揺れながら、こちらへ近づいてくる。
「クラウス様、お怪我はございませんか」
リュカが息を切らしながら声をあげる。
「遅い」
クラウスが憮然と一言、家令に告げた。
「申し訳ございません、笛を取りに行っていて、時間がかかりました」
片手にランプ、もう片方の手に小さく細い筒のようなものを持っている。
リュカは言いざま、筒を口にあてる。
「犬は犬笛で操る。人間の耳には聞こえない音だ」
クラウスが教えてくれる。
確かに、フロイラの耳には何も聞こえない。だが犬たちは一斉に立ち上がると、背を向けゆっくり尻尾を振りながら闇のなかへ去っていった。
「クラウス様、手に怪我をされていますね」
リュカの言葉も眼差しもクラウスのみに注がれている。フロイラの存在はまるで空気だ。
「たいしたことはない」
そうは見えません、言下に否定する。
「医者を呼びましょう。とりあえず邸にお戻りください」
二人が言葉を交わしているかたわらで、フロイラはどうしようもない身の置き所のなさを感じざるをえなかった。
誰かが駆けてくる足音と、手にしているランプの灯りが見えた。
揺れながら、こちらへ近づいてくる。
「クラウス様、お怪我はございませんか」
リュカが息を切らしながら声をあげる。
「遅い」
クラウスが憮然と一言、家令に告げた。
「申し訳ございません、笛を取りに行っていて、時間がかかりました」
片手にランプ、もう片方の手に小さく細い筒のようなものを持っている。
リュカは言いざま、筒を口にあてる。
「犬は犬笛で操る。人間の耳には聞こえない音だ」
クラウスが教えてくれる。
確かに、フロイラの耳には何も聞こえない。だが犬たちは一斉に立ち上がると、背を向けゆっくり尻尾を振りながら闇のなかへ去っていった。
「クラウス様、手に怪我をされていますね」
リュカの言葉も眼差しもクラウスのみに注がれている。フロイラの存在はまるで空気だ。
「たいしたことはない」
そうは見えません、言下に否定する。
「医者を呼びましょう。とりあえず邸にお戻りください」
二人が言葉を交わしているかたわらで、フロイラはどうしようもない身の置き所のなさを感じざるをえなかった。