お見合い相手は冷血上司!?
「課長! ま、待ってください!」

 随分と先を歩いていた課長は足を止めると、徐に振り返る。乱れた呼吸を整えながら見上げると、彼は小さく鼻で息をついた。

「あの……課長が、どうしてここに?」

 問いかけに、一瞬顔を顰める課長。

「さっきも言っただろう。俺が、お前の見合い相手だからだ」

「いや、あの、それは分かったんですけど……」

「早く来い」

 再び歩き出した課長は、先ほどよりも早いスピードで進んでいく。

 やっぱり機嫌が悪そうだ。そりゃそうか。せっかく来たお見合いの相手が、自分の部下だったんだもの。

 彼に聞こえないように息をつくと、黙って後を追う。しかし一分もしないうちに、突然止まった大きな背中に勢い良くぶつかってしまった。

「イテテ……あ、すみません」

 ジン、と痛む鼻をさすりながら顔を上げると、春独特の生暖かい風が首筋を撫でる。
< 39 / 195 >

この作品をシェア

pagetop