お見合い相手は冷血上司!?
 目の前には、眩しいぐらいに青々しい芝が広がっていて、その庭の入口には何本ものバラのアーチが構えていた。

「わぁ……!」

 まるで、絵本の中の世界だ。

 目の覚めるような真っ赤なバラのアーチを、一本、また一本、と潜る度に、湿った青の匂いと、濃厚な花の香りが漂う。

 それを全身で感じるように目を閉じてすべてを潜り終えると、知らぬ間に課長を追い越していることに気が付いた。

「あっ……」

 恐る恐る振り返ると、少し後ろで腕を組み、眉を顰めていた彼と視線が絡み合う。

「花、好きなのか?」

 質問されるなんて思っていなくて、口ごもりながらもなんとか首を縦に振り「はい」と答えた。
 すると彼は無表情のまま、真っ直ぐに前を指差す。

 同時に風向きを変えた春風に誘われるように、ゆっくりとその指の先を辿った――。
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