お見合い相手は冷血上司!?
「課長が……わ、私を?」

「好きでもないやつにプロポーズしているほど、俺はひまじゃない」

 伸びてきた手が、私の頬をするりと撫でる。
 思わずビクッと肩を跳ねさせると、彼は嬉しそうに口元を綻ばせた。

 あ、笑った……?
 それは父に見せていたよそ行きの笑みではなく、桜色の唇は自然に弧を描いていて、つい見入ってしまった。

 今までの彼の態度を見ていて、好意を持たれていたなんて気が付ける人などいるのだろうか? 少なくとも私は、自惚れたことすら一度もなかった。
 『冷血人間』と呼ばれた彼の手が、こんなに温かいなんて知るはずもない。

「お気持ちはとても嬉しいです。本当に。でも課長は上司で、そういう風に見たことがなくて。……結婚は、考えられません」

 深々と頭を下げた。天地がひっくり返ったのかと思うほど驚いたけれど、課長の気持ちは素直に嬉しい。
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