お見合い相手は冷血上司!?
「課長は行かないんですか?」

 小首を傾げると、彼は一瞬大きく目を見張った。

「俺はいい。ここにいるから、行って来い」

「でもせっかく来たんですから、課長も一緒に行きましょうよ」

 彼はグッと顔を顰め、その眉間には、深い黒瀬川が刻まれる。久しぶりに見たそれに、思わず警戒して数歩下がった。
 すると彼は丸太の階段を登り、私を見下ろす。

「…………早く来い」

 カラン、コロン、とカウベルの音を潜り中へ入ると、濃厚な甘い香りが鼻腔を擽った。

「いい香り」

 手作りらしき木製の棚に並ぶ、たくさんのラベンダーグッズ。
 アロマオイル、スキンケアクリーム、ラベンダーを練り込んだスコーンやケーキまである。

 その香りや見た目の可愛さに、この場にいるだけで幸福感に満たされた。
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