浅葱色の記憶

斎藤一

「永倉君とサクタは?」

「サクタが体調不良でな
部屋に食事持って行ってやれ」



土方さんに言われ、藤堂君と一緒に永倉君の部屋へ行く


「あれ?サクタは?永倉君?」


藤堂君は、お膳を置き


「皆に報せてくる」


そう言って、行ってしまった


「永倉君…?」


呆然と1点を見つめたままの永倉君に
嫌な予感しかしない



幹部がバタバタと集まると
永倉君が見つめていた1点に、手をついた


「ここにいたんだ……真結…
ここにいたんだよ!!ここに、いたのに…」


その先の言葉が何かなんて、聞かなくても
予想できる


永倉君の横に山南さんが座った



「サクタ君はここにいて、どんなふうに消えたのですか?
意識はありましたか?」


「今、聞かなくても…」


近藤さんが止めようとしたが


「今、聞いておかないと、次に帰って来たときに、また記憶が無かったら
サクタ君には、聞けないでしょう?
永倉君がたよりですからね」


永倉君は、真っ青な顔を山南さんに向けた


「意識はあった
話してたら、急に透けて見えて
俺の手がすり抜けて……
真結も驚いていたけど
何か、覚悟してたみたいで
俺ほど慌ててなかった」


「兆候があったわけだ
あれ?なぜ、ここにお膳が?」


「ああ 廊下でふらついてんの見つけて
部屋で休むように言ったんだ」


土方さんが答えると
山南さんが、眼鏡に手を当てる


「その時の様子は?」


「驚いていたような気がする
『私、どうしたの?』って、確認してた」


「恐らく、ふらついたその一瞬を未来で過ごし、帰って来た
そして、体が透けた時に
未来に戻らなければならないと
悟ったのかもしれないね」


「真結…どうなる?」


「僕の推測ですけど、帰らないでしょうね
彼女が、ここに帰るために
変なことを考えなければいいですね」



サクタが、ここに帰って来るためには
死にかけなければならない


それは、もう会えないことを意味していた




永倉君が、可哀想でみてられなかった









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