僕と家族と逃げ込み家
「なぁ、恵」気持を落ち着かせようと、二胡のことを思い訊ねる。

「女の子のご機嫌を取るのに何が一番効果的なんだ?」
「誰の機嫌を取るの!」

訊くが早いか氷点下の瞳が僕を睨む。
怖っ! 何で怒られるんだ?

「――あ新しい塾生だよ」

「……ん?」と恵が遠くを見る。そして、アッと思い出したように頷く。

「岡崎母が言っていた子ね?」

誰経由で伝わったんだ?
本当、この近所で隠し事なんてできない。プライベートもあったもんじゃない。

「ああ」と肯定し、当たり障りのない程度に説明する。
「――ったく!」と恵は両手を机にバンと音を立てて突くと、スックと立ち上がる。

「どうしてイジメってなくならないの!」

恵の憤慨は分かる。だが、仁王立ちする必要はないと思う。
恵を見上げ、座れ、と目線で椅子を指す。

「効果的な方法なんてないわ!」

そう答えると恵は腰を下ろし腕を組む。そして、背もたれに背を預けるとなぜか偉そうに仰け反る。

「大体、作戦を練ること自体、トリッキーなの! 本気で相手を思っていない証拠だわ」

こいつ中三だよな。時々僕より年上に見える。
母親がいないから、こんなにしっかりするのか?

「彼女に認めて欲しいと思うのなら、本気でブチ当たらなきゃ」
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