僕と家族と逃げ込み家
『逃げ込み家』は、モーニングのピークも終わってひと段落付いたのか落ち着いていた。

叔父はアイスコーヒーを作りながら、カウンター席の逢沢さんと会話をしている。何が可笑しいのか満面の笑みだ。平和で何よりだ。

だが……とまた小悪魔が囁く。
トヨ子ちゃんの見合い話を聞いたら……どうなるだろう?

言いたい! 口がムズムズするがグッと我慢して逢沢さんに挨拶をする。

「おっ、魔王降臨!」

逢沢さんの言葉にギョッとするが、小悪魔の囁きを聞かれたわけではなさそうだ。

「春太、今度の主役はお前だって!」

魔王? 主役? 何のことだ?

「ありがとう。恵がね、勉強しているんだよ。『魔王が魔王が!』ってうわ言のように呟きながら」

なるほど、家庭教師の件ねぇ。ふーん、僕が見ていなくてもスケジュール通り勉強しているんだ。感心! 感心!

――で……ええっ!

「ハードボイルド小説の主人公が僕っていうこと?」

カッコイイじゃないか!

「うーん、ハードボイルド系BLミステリー小説の主人公が、君ってことかな」
「ん? BLって……ボーイズラブ!」

それは僕のジャンルじゃない美山だ……と口が裂けても言わないが……。
なんてこった!

「ご辞退申し上げます」
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