意地悪な彼の溺愛パラドックス

午後は田辺マネージャーと打ち合わせ。
相変わらず手厳しいが、プライベートが充実しているおかげもあって気分が上がる分、なんとかめげずにやっている。
それに最近、雰囲気が丸くなったような気がする。
「聞いているのですか!? 馬場店長!」
のは、思い過ごしだろうか。
私は事務所内にキンと残った残響に身震いした。
今日も似つかわしい黒髪をのせて、眼鏡の奥の視線を光らせる。
「えーと、グッズ販売の件ですが……」
「え、すみません」
ゴホンと咳払いをして重々しく口を開いたので反射的に謝ると、田辺さんは「なにかやらかしたのですか?」と眉をひそめる。
ブルブルと首を横に振って姿勢を正す私に、またゴホンとひとつ咳払いをした。
「馬場店長の店舗、オリジナルグッズの先月の売上がエリア一位です。おめでとうございます」
「すごいですね!」
「調子にのらずお願いします」
浮かれる間もなくピシャリと言い放った後、言いにくそうにつぶやいた。
「多少のアレンジは独自の判断でかまいませんが、今後も報告は必須です」
「それって……」
「まぁ、結果が出ていますから」
初めの頃は認めないと極言していたのに。
やっぱり当たりがやわらかい。
単純な私はそれだけでうれしくて、店長として気を引きしめてがんばらねばと気合いを入れる。
「それとこの展開は、次回の会議でプレゼンしてもらいます」
「私がやるんですか?」
「誰が考案したのです? 詳細はメールで入れますので、しっかり準備しておいてください!」
「うわぁ、発表とか苦手なんですけど」
「馬場店長!」
「……はい」
遼くんにヘルプするしかないか。
プレゼンテーションは得意だろうし、少しくらいなら手伝ってもらえるだろう。
そもそも、彼がマネージャーだったからこそ避けていられただけ。
私も成長しなければと思い甘受する。
「がんばります」
「よろしくお願いします。本部でも好評で、エリア部長もぜひ馬場店長にとおっしゃっていましたよ」
「えっ、そうな……」
……ん、まさか黒幕は奴なのか。
要相談と脳内に付箋を貼り、再び仕事に勤しんだ。

十五時をすぎて、ユリちゃんと事務所で帰り支度をする。
先に着替えを済ませた私は、汗を拭き取り一生懸命ファンデーションを顔に叩きつけた。
「店長、この後デートですか?」
「えっ!?」
「お相手は柏木マネージャー?」
「えぇっ!?」
メイク直しに夢中の最中、更衣室から出てきた彼女に図星を突かれて私は言葉を失う。
目を白黒させていると「いいなぁ。けっきょく付き合ったんですね」と、羨ましそうに両手のひらを合わせた。
「ど、どうしてわかるの?」
「店長が田辺マネージャーと打ち合わせしてたとき、柏木マネージャーが私服でウロウロしてたんで、ピンときましたぁ!」
なにをしていた、柏木遼。
またなにか企んでいるのか否かはサッパリわからないけれど、用心するに越したことはない。
「早く行った方がいいですよぉ」と、楽しそうなユリちゃんに煽られ事務所を出た。
< 66 / 68 >

この作品をシェア

pagetop