桜の季節、またふたりで
「ごめんな、勝手に俺のことばっか話して。


俺は、美春のことを絶対に忘れないってことを伝えたかったんだ。


これからは、俺のことを本当の兄貴だと思って、頼ってこいよ」


カズは腕をほどくと、向かい合うように私を引き寄せて、涙のあとにそっとキスした。


「最後のキスは涙の味、だな」


「カズ・・・」


「あっ、ケーキってもしかしてチーズケーキだったりすんの?」


カズは、わざとらしい明るい声で、冷蔵庫を開けた。


「うん、カズ好きでしょ、チーズケーキ」


私も、精一杯の笑顔で答えた。


それから、ふたりでコーヒー2杯ずつとチーズケーキを堪能して、たくさんしゃべった。


2つのマグカップが空になったのを合図に、


「じゃあ俺、そろそろ帰るな」


カズが立ち上がった。


「カズ、本当にいろいろ、ありがとう。


それから、これ、受け取れない。


ごめんなさい」


私は、指輪が入った箱を手渡した。


「やっぱ俺、恋愛に向いてないのかもな。


返されても正直困るけど、美春が持ってたらもっと困るだろうから、持って帰るな。


なんかあったら、いつでも連絡しろよ」


「うん」


「それと、これ」


カズが差し出したのは、合鍵だった。


「これ使って部屋まで来れば良かったんだけどさ、この鍵は五十嵐さんに渡すんだろ?


そう思ったら、もう俺のじゃないからさ、なんか使えなかったんだよな」


「カズ・・・」


「じゃあ、美春、元気でな。


結婚式には呼べよ、俺が父親代わりにバージンロード歩くからさ」


「わかった」


バタン、とドアが閉まった。


カズ、本当にありがとう。


一生、忘れないよ。


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